それは武士道じゃない

「武士道」「品格」大はやり

 約20人の受講者を前に、「武士道の心を表す12の漢字」を講師が横一列にホワイトボードに書き出した。

 仁、義、礼、智、誠、孝、忠、廉、恥、勇、名、克

 「この中で最も好きなのは?」という問いかけに、受講者の一人から「勇」という声が上がる。講師は「勇とは正しいことを正しいと言い、間違いを間違いと言えること」と説明し、「社員に勇がなく、正しいことを指摘できないからこそ、企業に不祥事が起こるのです」と続けた。

 武士道精神に基づくプログラムが売り物の人材育成会社「ラインエイジ」(東京)が先月19日、兵庫県加古川市で、地元の携帯電話販売会社の幹部社員や店長を対象に開いた社員研修の一こま。12の漢字は、新渡戸稲造の「武士道」などを参考に歴史学者らの助言も得て、ラインエイジが選んだものだ。

 携帯電話販売会社の社長(63)は、武士道精神の復活などを訴えた藤原正彦お茶の水女子大教授のベストセラー「国家の品格」に感銘を受け、月1回ずつ1年間の研修を依頼した。「一つの不祥事で企業が信用を失う時代。社員に倫理がないと会社は成り立たない」。この会社を含めて現在5社が契約している。

 2005年11月の同書の出版で拍車がかかった武士道ブーム。大手書店の中には「武士道本」のコーナーを設けているところも多い。

 武士道で思いやりを意味する「仁」を身につけ、職場では同僚への気遣いを欠かさぬよう勧める――そんな具合に、利己心を抑えた生き方の手本を江戸時代の武士に求め、組織の一員としての生活に役立てる手だてを説く本が目立つ。

 倫理やマナーの向上を訴える際に「品格」という言葉を使うこともブームだ。「『品格』の磨き方」「日本人の品格」……。書店には「品格本」も並ぶ。

 中でも昭和女子大学長の坂東真理子さんが書いた「女性の品格」は、06年9月の発行以来、すでに42万部が売れた。「約束をきちんと守る」「利害関係のない人にも丁寧に接する」「よいことは隠れてする」、そして「倫理観をもつ」。66項目にわたって「品格ある生き方」を紹介している。

 「育児本と同様に、マナーや道徳を親が教えられなくなっていることがブームの背景にあるのではないか」。出版元のPHP研究所は、そう分析する。

 しかし、専門家の間には、こうしたブームに違和感を唱える声もある。

 「何事もマニュアル頼りの風潮に、道徳までが巻き込まれた観がある」と語るのは加藤和哉・聖心女子大准教授(哲学・倫理学)だ。

 東大大学院の菅野覚明教授(日本倫理思想史)も「道徳は法律と違い、『私はこうありたい』と自分で自分を律するルール」としたうえで、武士道ブームに苦言を呈する。

 「裏を返せば今の日本人の主体性のなさの表れ。右にならえで武士道を賛美すること自体が、自らの信じる道を独立自尊の精神で歩み、武士道を築き上げた武士の精神に反する」

 ブームの火付け役になった藤原教授自身、こう語っている。「武士道にも品格にも王道はない。私の本を含め、本を1冊読んだからといって、すぐにその人が変われるわけではない」

 ただ、藤原教授はこうも言う。「忘れ去られていた惻隠(そくいん)の情や卑怯(ひきょう)、恥といった言葉に多くの人が触れるようになっただけでも、前進と言えるのではないか。これからは、どう深めていくかが問われている」

 知識を、知識に終わらせない――それは教科格上げが検討される道徳教育の課題でもある。
(2007年5月8日 読売新聞)

http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_07050810.cfm

それは武士道じゃなくて、儒教六韜じゃね?
ここで取り上げられているのは、江戸時代に生まれた武士道であって、言ってみれば武士にとっては平和であるために再就職先がない、いわゆる不景気の時代に生まれたもの。確かに時代に合っているといえば合っているかもしれないけど… その12文字は違う気がする。